耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「マスター誕生日おめでとう」
「おめでとうさん」
「田中さん!柴田さん!」
「おお~杏ちゃん、来とったんか」
「久しぶりだのぅ」
昔からのなじみの客に囲まれた杏奈は、嬉しそうに「お二人ともお元気そうで」と笑顔で言う。
二人のところまでやってきたマスターが「お二人とも、すみません……今日は店休日で、」と申し訳なさそうに言うと、田中が「分かっとるわ」と返す。
「今日はマスターの誕生日だろ?お祝いを持って来たんだよ」
「わしとこいつからだ」
柴田が手に持っていた包みを渡す。
「ありがとうございます……すみません、気を遣って頂いて」
「いやいや、ほんの気持ちだよ。いつも美味しいコーヒーを淹れてもらってるお礼の」
田中が言った言葉に柴田も頷く。
マスターは「せっかく来てくださったから」と、二人にコーヒーを淹れる為カウンターの中に入って行った。
二人はいつも座るカウンターにラッピングされた箱や多くの料理が並んでいることに目を見張り、いつもとちがう店内を見回して微笑ましげに目を細めた。そして中央に並べられたテーブルの方へ足を運んだ。
「こんにちは、田中さん柴田さん」
「おお、美寧ちゃんも来とったんだな」
「はい。杏ちゃんにご招待いただきました」
「そうかそうか、可愛い娘が二人そろって、マスターも嬉しかろう」
田中にそう言われ、美寧がはにかむ。
すると、田中と柴田の後ろから声が掛けられた。
「お待たせいたしました、ブレンドホットです」
「おお、颯坊もおったのか」
「すみません、可愛い娘じゃない僕までいて」
「あはははっ、可愛い息子だな!」
柴田が大きな口を開けて笑いながら言った。
コーヒーの乗ったトレーを持ってきたのは神谷颯介。ラプワールに最近入った彼も、せっかくだからとマスターの誕生日会に誘われていた。
午前中はサークルでボランティア活動をしてきた彼は、会が始まる時間には間に合わなかったが、ついさっきやってきた。
かくして土曜日の昼下がり。
家族と従業員で行われていたマスターの誕生日会に常連客も入り、ますます賑やかな会になった。