耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
それから、どこで聞きつけたのか近所の他の常連客まで顔を出し、次々にマスターに祝いの言葉や贈り物を置いていく。
その度にマスターは「せっかくだから」とコーヒーを振舞い、店休日のはずのラプワールはなぜか“開店休業”ならぬ、“閉店営業”状態。
振舞ったコーヒーは完全にマスターのサービスのため、“営業”ではないが———
「あっ、しまった……」
カウンターの中でコーヒーを落としていたマスターが突然呟いた。
「どうかしたんですか?」
マスターの手伝いをしていた美寧が尋ねる。
「いや、ボックスティッシュが切れそうなんだ。発注した分が月曜に届くので十分間に合うはずだったんだが……」
少し前にうっかり柴田がコーヒー用の生クリームをこぼして、慌てて近くにあったティッシュで拭いた。
そのあとお祝いに訪れた常連のご婦人が連れた小さな孫が、大人が話しに夢中な間に、ティッシュをあらん限り引っ張り出して遊んでいた。ティッシュの波に埋もれた赤子に、ご婦人は大慌てだったが、その場の一同で笑った。
店休日の今日、こんなふうに楽しいハプニングが起こるとは誰も思わなかった。
「私、買ってきますよ」
美寧は言った。
スーパーへのお使いなら慣れたものだ。
「すまんな、美寧。せっかくの会だっていうのに」
「全然大丈夫です。……ふふっ」
突然笑った美寧を、マスターが不思議そうに見る。
「ねぇマスター?一番忙しそうなお誕生日の主役にそう言われても全然説得力ないですよ、ね?」
楽しそうに笑う美寧に、マスターも笑顔になる。
「これくらいが俺にはちょうどいいんだ。来てくださった沢山の方々に、お祝いのお返しのコーヒーを淹れることが出来るなんて、本当に幸せな誕生日だよ」
「そうですね」
「それに、あっちよりもこっちの方が落ち着くしな」
カウンターの中から家族や常連客が笑い合う店内を見てそう言ったマスターに、美寧も「ふふっ、マスターらしいです」と笑って頷いた。