耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
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影が長く伸びた商店街を、美寧は軽快な足取りで歩く。祝日のため、シャッターが閉まっているお店も多い。

手に持った袋の中には、マスターに頼まれたボックスティッシュの他に、ペットボトルの飲み物やお菓子が入っている。
【スーパー徳安】でドリンクやスナックを買い、途中で通った【ベーカリー小川】で多めにエクレアやデニッシュを使ったスイーツパンも買った。

奥さんや杏奈が用意してくれていたお菓子や飲み物は、お祝いに来てくれたお客さんたちにふるまって、大分減ってしまっていた。マスターからこっそり「ついでに何か買って来てくれないか?」と頼まれたのだ。

(れいちゃん、そろそろ来るかなぁ……)

さっきお遣いに出た時にスマホを見たら、怜からのメッセージが届いていた。
仕事が終わったという連絡だった。

大学からだとラプワールまで三十分。そろそろついてもいい頃かもしれないと思うと、なんとなくそわそわとして、何度も後ろを振り返ってしまう。
けれどいつまでも怜を待っているわけにはいかない。マスターやみんなが待っている。
名残惜しそうに駅の方を見つめた美寧は、前を向くとラプワールに向けて足を踏み出した。


ラプワールまでもう少しというところで、前から知った人がやってきた。

「あ、……」

美寧が気付くと同時に相手も気付いて駆け寄ってくる。

「美寧ちゃん!」

駆け寄ってきたのは颯介だった。
彼は美寧が持っている荷物をさりげなく受け取ると、「遅いから心配してたんだ」と言う。

「遅くなって、ごめんなさい……」

怜のことを気にするあまり遅くなってしまった自覚がある。美寧はしゅんと肩を下げる。

「いや…えっと、責めてるんじゃないよ?ほらもうすぐ暗くなるから、マスターやみんなと心配してたんだ」

「……ごめんなさい」

颯介だけじゃなくみんなにまで心配をかけてしまったと余計に申し訳なくなった美寧に、颯介が「気にしないで」と言う。

そんなやり取りをしている間に、ラプワールが見えてきた。
足を速めようとした美寧とは逆に、一歩前を歩いていた颯介が突然足を止めた。

「わっ、」

あわやその背中にぶつかりかけた美寧。慌てて足に急ブレーキをかける。

「颯介くん、どうかしたの?」

すぐ目の前の背中に問いかけるが返事がない。

「颯介くん?」
「あのさっ……」

振り向きながら颯介が発した声。どこか切羽詰まったその雰囲気に気圧され、美寧は口を閉じた。
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