耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「僕………先週、実家に帰ってきたんだ」

それまでとはまったく脈絡のないことを言われ、美寧は一瞬きょとんとした。
彼が先週末のアルバイトを休んでいたのは、帰省のためだったのかと分かったが、突然どうしてそんな話を、と不思議に思う。

颯介は美寧と目を合わせないまま、言葉を続けた。

「僕の実家はここから電車だと二時間くらいかかるんだ。だから連休の時とかお正月とか、まとまった休みの時くらいしか帰ってなかったんだけど……」

颯介が何が言いたいのか分からない。
美寧は頭の片隅で、戻るのが遅くなってマスターたちが心配していないか気になった。

「あの、颯介くん……いったんラプワールに帰って、」

それから話を聞かせて、と言いかけた美寧に、颯介は伏せていた顔を上げ美寧をまっすぐに見つめながら口を開く。

「最初は僕の勘違いだと思ってた……」

いつもは子犬のように丸く可愛らしい颯介の瞳に、今は激しい熱がこもっているようで、美寧は知らず知らずのうちに後ずさっていた。

「連休でもないのに実家に帰ったのは、あるものを確かめたかったから……」

「確かめたら確信に変わったんだ……君と僕が出会ったのは、偶然なんかじゃない。きっと……」


美寧が一歩下がると、颯介が一歩前に出る。
じりじりとそれをくり返し、美寧の背中がトンと壁にぶつかった。

「美寧ちゃん———君は……本当は誰?」

「えっ、」

「君は本当に“杵島美寧(きじまみね)”?」

美寧がひゅっと息を吸って、両目を大きく見開いた。

怜ほどは背の高くない颯介でも、すぐ目の前に立たれれば小柄な美寧にとっての圧迫感は十分。
壁と颯介に挟まれた美寧は、反射的にそこから出ようと身を捩った。
が———

「待って、」

颯介に手首を掴まれそれを阻まれてしまう。肌に触れる違うひと(・・・・)の体温に、ぞわっと背中に悪寒が走った。

「は、はなして、……そうす、」

「君は、本当はこんなところ(・・・・・・)にいるべき人じゃないだろう?」

「っ、」

息を呑んだ美寧。
颯介は美寧の返事を待たず続ける。

「だって君は———」

掴まれた手首に力が込められ、美寧が痛みと不快感に顔をしかめた時、目の前に大きな背中が滑り込んだ。


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