耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
一瞬息を呑んだ美寧は、泣きそうに顔を歪め、その中へ飛び込んだ。

怜は胸元のシャツにしがみ付くように握る美寧を、ぎゅっと強く抱きしめる。腕の中に収めた小さな体は小刻みに震えていた。


美寧は神谷に詰め寄られた後、ラプワールに戻ってから一度も笑顔を絶やさなかった。
怜と二人きりになった帰り道でも、途切れることなくあれこれと喋っていた。

一見すれば、機嫌良く元気に見える美寧。
けれど怜は気付いていた。本当は彼女が泣き出しそうなのを我慢していることを。それを気付かれまいと、無理に明るく振舞っていることを———

「あの時……神谷君に何か言われましたか?」

腕の中の小さな肩がピクリと跳ねる。怜のシャツを握る手に力が込められたのが分かる。
そのまま抱きしめていると、美寧が小さくか細い声で言った。

「れいちゃん…あのね……」

「はい」

「わ、わたし……ほんとうは……ほんとは…ね………」

何かを言いたそうに、けれども言いづらそうに何度も口を開いたり閉じたりする美寧。
まるで水の中から無理やり出された魚のように、息苦しそうにもがく姿に、怜の口から自然と言葉がこぼれ出した。

「ミネ……前にも言いましたよね?俺はあなたが何者でもかまわない」

柔らかい髪が波打つ背中をゆっくりと撫でながら、怜ははっきりと言い切った。

「誕生日に贈り物は要りません」

「え?」

それまでとは違う怜の強い口調に、美寧が思わず顔を上げる。その瞳は真っ赤に充血し、今にもこぼれ落ちそうなほどの雫を湛えている。
怜は指で彼女の目元をなぞり、真っ赤な瞳を片方ずつ、癒すようにそっとくちづけを落とした。

「あなたがいてくれるだけで、俺には十分です」

怜は再び水膜が張り始めた美寧の瞳に、再びくちづけを落とす。

「ただ、そばにいて———ma minette」

唇を重ねると同時に、美寧の頬にひとすじの雫が流れ落ちた。




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