耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
膝の上で小刻みに震える手を固く握ると、手のひらに爪が食い込んでいく。その痛みが、美寧に“現実”を突き付ける。

「『なんで』だって?大事な妹が一緒にいる相手だ———兄の僕には知る権利がある」

「っ、」

自分が一緒にいることで、何も悪いところのない怜のことまで探られてしまう。美寧は唇を噛み締めた。

聡臣は沈黙した妹から視線を外すと、怜に向き直った。

「藤波さん、あなたは大学の准教授をされていらっしゃるようですね」

「———はい」

「社会的にもしっかりとした地位がおありのあなただ。だからきっと、妹を手元においたままにする、そのリスクをお分かりだと思います」

「……『リスク』とは?」

「十も下の年若い女性との同棲(・・)生活は、あなたにとってリスクではないですか?」

「どっ!?」

『同棲』という言葉に美寧が肩を跳ね上げる。怜との暮らしをそんな風に考えたことはなかった。

「俺は確かに彼女より十ほど年が上ですが、彼女もすでに成人した立派な大人です。本人の同意があれば、一緒に暮らすのに問題があるとは思えません」

「れいちゃん……」

『立派な大人』だと言われ、美寧はこんな時なのについ嬉しくなってしまう。自分のことをきちんと『大人の女性』として扱ってくれるのは彼だけだ。

キラキラと輝く瞳で隣の男を見つめる妹に、聡臣が眉を跳ね上げた。

「美寧。未婚の男女が一緒に住んでいるということは、それだけで変な噂を立てられることもある。それだけじゃない……男と一緒に住むということは………何かあったら傷付くのはおまえなんだぞ」

「っ、……そんなことない!私、れいちゃんといて傷付くことなんてないもの」

「美寧……おまえにもし何かあれば、僕は彼を許さない。きっと父さんも黙っていないだろう。そうなれば彼は『若い女性をたぶらかした』という汚名を負うだけでなく、その社会的地位も危ぶまれることになるんだぞ?」

「そ、そんな………」

兄の言葉にショックを受けた美寧に、聡臣も苦いものを噛んだような顔になる。
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