耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[2]


「お兄さま……どうしてここに………」

「仕事で近くまで来たんだ。少し空き時間が出来たから、おまえの顔を少しでも見たくて。車で通りかかったところにおまえの姿が目に入ったんだ………」

そう言うと聡臣は「ふぅっ」と安堵の息をついてから「間に合ってよかった」と口にした。


美寧の窮地を救ったのは兄の聡臣。
彼は、表通りを車で通った時に一瞬視界の端に映った妹によく似た背格好の女性が気になって、運転手に車を停めさせ走って公園の中までやってきたらしい。

男を投げ飛ばして取り押さえた聡臣は、その場で警察を呼び、やってきた警官に男を引き渡して美寧の事情聴取にも付き添ってくれた。

そうして、すべての処理が済んだ後、雨に濡れそぼった美寧を自分が乗ってきた車へと案内した。

乗せて貰った車内は暖かく、エアコンのファンを強くしてくれたのか、暖かい風が濡れた髪を乾かしていく。
運転手が出してくれたタオルで濡れた髪や服を拭いた美寧は、まず兄に助けてもらったお礼を言って、それから疑問を口にした。

道路わきに止まったままの車の中は、兄妹二人だけ。運転手は気を利かせてくれたのか、「先方に連絡を入れておきます」と言って携帯片手に車外へ出ていった。

「美寧———暗くなってからこんな人通りの少ないところを一人で歩くなんて、危ないじゃないか」

眉を跳ね上げた兄に叱られ、美寧はシュンと肩を下げ「ごめんなさい……」と謝る。

美寧や聡臣の父親は、いくつものグループ会社をもつ大企業のトップ。彼らはその子どもというだけで、小さなころから要人扱いされてきた。

身代金や逆恨みで家族の身が危うくなることがあることを叩き込まれた聡臣が、護身のために空手を習っていたのが、今回美寧を助けるのに役立った。

けれど、父の元を離れてずっと祖父と暮らしていた美寧にはその自覚は薄い。つい忘れがちになってしまう。
祖父がつけてくれる運転手付きの送迎は、『家が街中から遠くて不便だから』という理由だと思っていた。
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