耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
あの時、あのまま兄が来なかったら自分はどうなってたのだろう。想像することもできなくて、ただぶるりと身を震わせる。
そんな美寧の様子に気付いた聡臣が、「ごめん……怖い思いをしたのはおまえだったな」と美寧の背中をそっと撫でてくれた。

兄の優しい手に、幼い頃を思い出す。
祖父がよくそうしてくれたように、兄も美寧の小さな背中をそうやって撫でてくれた。
美寧の胸に、あの頃の温かな気持ちがよみがえる。

「お兄さま……この前は、ごめんなさい」

背中を撫でていた手がふと止まる。美寧は兄の目を見ながら言った。

「『大嫌い』なんてうそ………本当は大好きよ、お兄さま」

兄が瞳を見開く。そしてそのくっきりとした二重の垂れ目を緩やかに細めた。

「本当に無事で良かった、美寧………。おまえは僕にとって大事な妹なんだ。これからもずっとそれは変わらない」

美寧は頷いた。美寧にとっても聡臣はずっと大事な兄。
その聡臣は言う。さっきまでとは全く違う、鋭く強い瞳で。

「おまえにもしものことがあったら、僕は相手が誰だろうと絶対に許さない」

「お兄さま………」

「だから帰っておいで———美寧」

「っ、………」

言葉に詰まった美寧に、聡臣ははっきりと言った。

「なにも『彼と別れろ』と言っているわけじゃないんだ。恋人同士として“普通に”お付き合いすればいい。ただ、同棲は解消して、家に帰って来てほしいだけなんだよ」

「……でも、私…、」

「楽しみにしてたんだよ、美寧。おまえと暮らせるのを。………兄の願いを叶えてはくれないのか?」

兄にそう言われ、美寧はうつむいて黙り込んでしまった。
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