耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー


(お兄さまがおっしゃっていたことは本当だった……れいちゃんは研究を続けられなくなるの……?そのせいでフランスへ行っちゃうの!?)

准教授室の前から物音ひとつ立てずに立ち去った美寧は、階段を駆け下り学部棟の外に出た。あたりはもう真っ暗だ。けれど周りをよく見ることもなく、美寧は一心不乱に走った。

自分はいったいどこへ向かっているのか。どうしたら良いのか。そんなことは一つも考えられない。

兄が言った通り、父が怜の研究の邪魔をしたのかもしれない。
だとしたら、自分が怜と一緒にいたせいだ。怜の研究をダメにしたのは自分なのだ。
そのせいで、怜はフランスに行ってしまう———

(だからなの?私に『実家に戻ったら』って言ったのは………)

今朝の怜の台詞がストンと胸の底に落ち、同時にすべてが繋がった。

(私がこのままれいちゃんの家にいたら、れいちゃんにもっと迷惑がかかっちゃう……)

そう思ったら急に走っていた足が緩み始める。

大人しく父の家に戻るべきなのだと理性が言う。けれど心がイヤだと叫んでいる。

(私……どこに行けばいいのかな………)

段々と走る速度が落ち、走りが歩きに変わる。重い足取りで《《とぼとぼ》》とうつむいたまま建物の角を曲がった時、向かいから来た人と出合い頭にぶつかりかけた。

「うわっ、」
「きゃっ、」

同時に上がった声に顔を上げると、相手はよく知った顔で———

「颯介くん!」

「美寧ちゃん!———どうしてここに………え、泣いてるの!?」

丸い瞳を見開いた颯介そう言われて初めて、美寧は自分が泣いていることに気付いた。慌てて目元を拭う。

「どうしたの!?何かあった———って、あ、」

美寧がやって来た方を見て、颯介は何かに気付いたようだ。そもそも美寧が大学(ここ)にいる理由なんて一つしかない。

「………藤波先生と何かあったの……?」
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