耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「ど、……どうして……それ、を………」
かろうじてそれだけ言った美寧。
颯介は眉をひそめ、美寧を見降ろしながら言った。
「僕の祖父は現役時代、私立高校の理事長だった」
唐突に始まった颯介の身内話。
それまでの会話とは何の脈絡もないように思えて、美寧は戸惑ってしまう。
そんな美寧にかまうこともなく、颯介は一方的に話を続けていく。
「じいちゃんに僕はよく、こう言われていた。———『お前に“許嫁”がいる』」
“許嫁”のフレーズに、思わず美寧の眉間に皺が寄る。なぜか背中がうすら寒い。
「じいちゃんが僕にそう言うのは大抵、親族の集まりで酒を飲んで上機嫌になったときだったから、冗談だと思って僕も『はいはい、美人ならいいけどね』って笑い飛ばしてたんだ———けど、」
いったん言葉を切った颯介は、まっすぐに美寧を見つめ、言った。
「今年の正月にじいちゃんに会った時、『正式に顔合わせが決まった』って言った」
目を見開いた美寧。それをまっすぐに見つめ返す颯介。二人は見つめ合った状態で動きを止めていた。
颯介は、ゆっくりと息を吐いたあと、口を開いた。
「正直意味が分からなかったよ………。『いったい何のことだよ!?』っていう僕に、じいちゃんは『許嫁との顔合わせだ』って……」
美寧はただ大きく目を見開き固まっていた。息をすることすら忘れたように。
颯介はそんな美寧をじっと見つめながら言う。
「僕はそこで初めて知った。じいちゃんが言ってた『許嫁の話』が本気だったんだって。びっくりしたよ……『許嫁』なんて時代錯誤な話、いくらなんでもあり得ないでしょ………」
颯介は溜め息をつく。
「もちろん反対した。まだ大学に入ったばっかりなのに、許婚とか結婚とかって勝手に決められたくない。僕だって選ぶ権利くらいあるだろ———って」
「だけどじいちゃんは言うんだ。『こんなにいいお相手は、なかなか見つかるもんじゃない』『お前にはもったいないくらいのお嬢様だぞ』『後にも先にもこれ以上の相手はきっといない』———って」