耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
怜が何を言いたいのかよく分からない。

『無防備な』と怜は言ったが、今日着ているワンピースは夏の初めの頃に涼香がくれたもので、美寧のお気に入りの一着だ。

スモーキーピンクの生地にぼかした花柄が入っていて、可愛くもあり大人っぽくもある。全体にクシャッと皺の入った生地は着心地がいいし、スカート部分に入ったたっぷりのヒダが、歩くとひらひらと揺れてとても動きやすい。七分丈の袖は、昼間は暑くなることの多い今時分にも重宝している。


「何か羽織るものを持って来ていないのですか?」

怜にそう問われ、美寧は首を左右に振った。
公園でスケッチをしたら、昼過ぎには家に戻るつもりだったのだ。天気の良い日中はまだ意外と暑い。だからカーデガンは必要ない。

美寧の答えに、怜はまた「ふぅ~~」と、長い溜息をついた。
その溜息に、美寧はハッと気が付いた。

(ど、どうしよう……こんな格好で来ちゃダメだったんだ……)

大学は学生が勉強に来るところだ。制服は無いけれど、それ相応の格好をしないといけなかったのだろう。さっき講義室で見た学生たちの服装は、美寧の頭からすっかり抜け落ちてしまっている。

美寧は大学へ行ったことがない。それ以前に、他の学校がどんなものかも知らない。
美寧が通っていたのは中高一貫の私立女子校で、祖父お抱えの運転手付きの車の送迎で通っていた。
その為、学校の行き帰りに友達と寄り道をしたこともなければ、たこ焼きを買い食いしたこともない。

今回一人で電車に乗ることすらも、美寧にとっては大冒険だったのだ。


肩を落として俯いた美寧の顔が、突然スッと持ち上げられた。襟元を辿っていた怜の指が、いつの間にか美寧の顎を掴んでいる。美寧の潤んだ瞳と怜の鋭い瞳が交わった。怜の瞳の奥が、かすかに揺らいだ。

「ごめんなさい……」

美寧はじわりと潤んでいく瞳で怜を見つめたまま、そう言った。
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