耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
***


しばらくするとマスターが店に戻ってきた。一人だった。その場にいた一同はまたしても落胆の顔色を浮かべる。

マスターが戻ってくる数分前に、聡臣からも連絡があった。
美寧が実家に帰ってきた形跡はないらしい。彼の家に雇われているハウスキーパーもそう言っているという。

もう一度男性陣だけで手分けして辺りを探し回ったが、美寧の気配も見かけたという情報もない。もちろん、怜の家に待機してもらっている花江からの吉報もない。

八方ふさがりだった。


「警察に……連絡した方がいいかもしれんな………」

夜九時を回ろうかとしている頃、マスターがポツリと言った。
みな同じことを思い始めていたところだったのか、シンと場が静まる。

「でも………美寧ちゃんの立場を考えたら、おおごとになり過ぎる可能性もあるわ………」

涼香が呟いた。
Tohmaトップの令嬢が行方不明ともなれば、身代金目的の誘拐の線も出てくる。きっと警察もそれ相応の対応になるだろうし、万が一マスコミに知られたら騒ぎになるかもしれない。

美寧が自分で姿をくらませたとしたら、騒ぎになったら困るのは彼女自身。

「でも、もし……美寧に何か起こって、取り返しのつかないことにでもなってたら………」

「ヒロ………」

心配そうに顔を歪めたマスターの背を、そっと奥さんが撫でる。
すると、杏奈がポツリと言った。

「美寧ちゃんが行きそうな場所は他にないんですか……?ご実家や藤波さんのお家以外に………」

「ミネが行きそうな場所………」

「はい。例えば、彼女にとって思い出の場所とか、大事にしているところとか………」

「大事な……思い出の………」

つぶやきながら何かを考え込んだ怜。次の瞬間、ハッとした。

「もしかしたら―――」

怜のその言葉に一同が期待のまなざしを向けた時、スマホが音を立てた。怜のものだ。画面には聡臣の名前が表示されている。

電話を取った怜に聡臣が告げた。

美寧の居場所が分かった———と。





【第十三話 了】 第十四話につづく。
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