耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「神谷君……ひとつ教えてください」
「はい………」
「君が美寧とその話をした場所はどこですか?」
「………大学です」
怜は無意識に息を詰める。
「大学のどこで、……いつ」
「場所は……理工学部とサークル棟の間で……時間は、…たぶん六時くらいです」
「六時……」
怜は思い返した。准教授室の前に落ちていたネックレスを拾ったのはおそらく六時過ぎ。
あの時ちょうど、美寧は颯介と一緒にいたのかもしれない。
「君はそれからミネといつまで一緒だったのですか?彼女がどこに行くとか聞いてませんか?」
「いいえ、分かりません……あれからすぐにミネちゃんは走って逃げて、っ……」
「『逃げて』………?」
「しまった」という顔をした颯介。
彼は再びうつむいた。なにか気まずそうに視線をさ迷わせている。
「ミネに……ミネに何かしたのですか?」
怜の問いに颯介の肩がビクリと跳ね上がる。
「———美寧に、何をした」
怜は両手を固く握りしめ、静かに、低く、訊ねた。
すると、唇を噛み締めた颯介が俯いたまま言った。
「………スだけ」
颯介がポツリと言った言葉は聞き取れず、隣に立っている涼香の方が「何?聞こえないわ」と苛立たしげに訊き返す。
意を決したように顔を上げた颯介は、今度はハッキリと言った。
「キスをしただけっ、———キスしかしてない!………強引だったのは悪かったと思ってるよ!でも!僕だって彼女に唇を噛まれてっ、」
怜が両目を見開くのと、颯介の頬が鈍い音を立てるのはほぼ同時だった。
体勢を崩した颯介がぶつかった椅子が倒れ、ガシャンと大きな音を立て店中に鳴り響く。その場にいた全員が、大きく息を呑んだ。
思いっきり横っ面を殴られた颯介は、そのまま斜めに顔を向けて固まっている。
涼香が吐き捨てるように言った。
「最低ね、あなた」
涼香はそう言うと、振り上げていたこぶしを下ろし、胸の前でギュッと握りしめた。
颯介は、彼女に殴られた頬を手で押さえながらうつむいている。
「好きな子に振り向いてもらえないからって、相手の気持ちを無視してキスするなんて………最低だわ」
「……すみません…でした………」
苦い顔をした颯介が言った。
涼香はそんな彼の謝罪の言葉など、聞きたくもないというように顔を振る。そして、瞳を潤ませ言った。
「美寧ちゃん、きっとすごく傷ついてる……可哀そうに………早く見つけてあげなきゃ……」
「ユズキ……」
怜は、自分の前ではいつも明るく強い友人が、そんなふうに涙ぐむのをこれまで一度も見たことが無かった。おかげで頭の中がスーっと冷えていく。
友人の肩を軽く叩いた怜は、颯介にまっすぐに見つめ言った。
「謝る相手は俺たちじゃない。君を許すかどうかはミネが決めることだ」
颯介は唇を噛み締め、頷いた。