耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「幼いおまえの顔を見るたび、罪悪感で苦しくなった………『こんな(いとけな)い子から母親を奪ってしまったんだ』と———」

「そんなことは………」

美寧は小さく左右に首を振る。

「私と出逢った時の清香(さやか)は、ちょうど今のおまえと同じ年だった」

父の言葉に、美寧の動きが止まる。

父はいったい何が言いたいのだろう。それまでの話とのつながりが見えない。
じっと父を見つめると、父は眩しいものを見るかのように、ゆっくりと目を(すが)めた。

「今のおまえはあの頃の清香にそっくりだ。おまえがそこに座っているだけで、あの頃に戻ったような気持ちになるほどに………」

懐かしそうに、そして愛おしそうに目を細める総一郎。美寧の向こうに亡くした妻の面影を見ているのかもしれない。

杵島の家(ここ)から足が遠のいてしまった理由を『義父の拒絶』のせいにするのは、私にとって絶好の言い訳だった……本当はただ見ていられなかっただけなんだ………自分のせいで手放したおまえが、成長するにつれどんどん清香に似てくるのを———」

そう言って、父はつらそうに美寧から顔を逸らした。


美寧はもう何も言えなかった。

ずっと父は自分のことを嫌っているのだと思っていた。
その証拠に、年末年始に父の家に戻った時、父の態度はそっけなかった。一年ぶりに会うというのに、美寧の顔をちゃんと見ようとしなった。

居ても居なくても同じ。だから会いに来ない。美寧が父の家に帰るのは、一族や会社関係の“ご挨拶”のためのようなもの。父の顔を立てるためのものなのだ。

けれどそうではなかった———

父に嫌われていたわけではない。
それが分かっただけで、美寧の胸に喜びが沸き上がる。
けれど、それと同時に悲しくもなった。

祖父が父のことを嫌っていた。美寧の大好きな祖父が———。

愛する人を失った悲しみが彼らを隔て、そして美寧を家族から遠ざけた。
そのことがただただ哀しい。

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