耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「はい」

小さく返事をすると、ノブがガチャリと音を立て、「失礼いたします」と言いながら一人の学生が顔を出した。

「藤波先生、次の実験のことで、……っと、」

言いかけた竹下はそこで口を噤んだ。この部屋の主が、唇の前で人差し指を立てていたからだ。

怜の顔から視線を少し下にずらした竹下は、その意味をすぐに理解した。
准教授の膝を枕に、一人の美少女が横たわっている。

透き通るような白い肌に桃色の頬。色素が薄く長い髪。閉じた瞼を覆っている睫毛はとても長い。

(び、美少女が気持ち良さそうに眠っている……しかも、あの(・・)藤波先生の膝枕で……)

色々とありえないものを見たような気持ちになる。

「その件でしたら、メールに入れています。今日はもう少ししたら帰りますので、後をよろしくお願いしますね」

目を丸くして固まってしまった竹下とは対照的に、いつもと変わらない態度の怜が坦々と言った。竹下は黙って頷くと、准教授室を後にした。



(眠ってしまったのは、大冒険で疲れた上に、きっとこれが原因だな……)

怜は手に持ったパンナコッタの瓶をぐるりと回す。
さっき食べた時に鼻に抜けたのは、アーモンドのような甘い香り。アマレットが入っているのだと、怜はすぐに気が付いた。
アマレットは、あんずの核を使ったアーモンドに似た香りと甘くてほろ苦い風味を持ったリキュールだ。

「こんなことが前にもありましたね……」

美寧の頬にかかる髪を指でそっとよけてやると、くすぐったかったのか、美寧が少しだけ「んん~」と言って身を捩ったけれど、またすぐにすやすやと気持ち良さそうな寝息を立て始めた。

「今日の夕飯はミネの好きなオムライスにするとしましょうか」と言うと、怜は眠る恋人の額にそっとくちづけを落とした。




【第一話 了】 第二話へつづく。
< 30 / 427 >

この作品をシェア

pagetop