耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
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怜は、ローテーブルの上に置いてあるパンナコッタを手に取った。さっき美寧が食べたから残りは半分ほどだ。それをスプーンですくって口に入れる。

美味(うま)いな……)

口に入れたパンナコッタは濃厚だけど甘すぎず、あんずの酸味もちょうど良い。甘いものを好んで食べるわけではない怜にも、『美味しい』と感じられた。

(流石だな。ラプワールのマスターは)

美寧がアルバイトに通う喫茶店のマスターは、コーヒーは言わずもがな、料理も美味い。
怜も休みの日には顔を出すことが多いので、その料理の上で前も良く知っている。更にデザートまで上手(うま)いとは。

(他の男が作ったデザートにまで妬くとは、我ながら………)

いつの間に自分はこんなに狭量になったのだろうか。美寧に出会うまでは感じたことなどなかった嫉妬心に、苦笑が漏れる。

ふと視線を下げると、見下ろした彼女の白い肌には、赤い花弁がくっきりと付いているのが目に入った。
そこはちょうどワンピースの襟の際。深くV字に切り込んだ襟の、少し屈むか上から見ればギリギリ見える場所。

美寧が下に一枚キャミソールを着ていることは分かっているが、だからと言って覗き込まれたり、じっと見られたりしたらいい気はしない。

実際隣の席に座っていた神谷と言う男子学生が、美寧の胸元にチラチラと視線を遣っていたのには、正直腹が立った。
だからと言って、単位をやらないなどというアカハラまがいのことをするつもりはない。今日の講義の内容を重点的に試験の問題に盛り込む程度の、多少の報復は許されるだろうが。

「本当に、困った子猫だ……可愛くて綺麗で純粋。なのに全部無自覚。………貴女(あなた)を閉じ込めたりはしたくないのに、誰の目にも触れさせたくない―――」

ふわふわと柔らかい美寧の髪を、そっと撫でる。指の間に感じる錦糸のように艶やか感触を楽しみながら、怜は独りごちた。

自分自身の気持ちを持て余した怜が「ふぅ~~」と長い息を吐き出した時、ドアをノックする音が聞こえた。
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