耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
(許嫁を決めたのはおじいさまだった………)

美寧の胸の内に複雑な想いが渦巻く。

『父が自分を追い出すために勝手に決めた』と思っていた許婚は、実は祖父が決めたことだった。

大好きだった祖父。家族の元から一人離れて杵島家で生活していた美寧にとって、身近にいた唯一の肉親。その祖父が、知らない間に美寧の許婚を決めてしまっていたなんて———。
そのことに少なからずショックを受けてしまう。

(それでも私はおじいさまのことを嫌いになれない………)

美寧のことをとても大事にしてくれていた祖父。
その祖父が美寧の嫌がるようなことをするわけない。きっと美寧にとって「良かれ」と思って決めたのだ。

(お父さまは、おじいさまがお決めになった許婚のことを反対してくださった……)

父は、ちゃんと美寧のことを気にかけていてくれたのだ。そうじゃなかったら、許嫁のことを反対するために祖父のところに(おもむ)いたりしないだろう。

「私はずっと、お父さまに(うと)まれているのだとばかり……」

「そんなことはない!」

父の勢いに少し驚く。そんなふうに感情を露わにする父を見るのは初めてだ。

「じゃあどうして………おじいさまが亡くなられた後、当麻の家に戻ってきた私と……顔を合わせないようにしていらっしゃったのは、どうしてなんですか………?」

美寧はおそるおそる、心の底に(おり)のように溜まっていたことを口に出した。
父は何も言わず、視線をさ迷わせている。

「父さん、きちんと美寧に説明してください」と聡臣に促されてやっと、父は重たい口を開いた。

「妻のことが………」

「え、」

(さや)のことが恋しくてたまらなくなるのだ………」
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