耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー

「家に帰って、おまえから何か言いたげな瞳で見つめられると、まるで清香に責められているように感じてしまって……『私のことを忘れないで』と———そんなわけはないのに、まるで妻と娘の両方に責められている気持ちになってしまったんだよ」

自嘲気味に言った総一郎は「もし生きていたとしても、清がそんなことを言うはずはないと分かっているのに」と付け足した。

「美寧。私が不甲斐ないせいで、おまえにはそっけない態度しか取れなかった———すまない」

そう言うと、総一郎は深々と頭を下げた。

愛する妻を失った悲しみと罪悪感に(さいな)まれていただけで、父は美寧のことを嫌ってはいなかった。
そのことがひとすじの光になって、美寧の胸に差し込んでくる。

「お父さま、顔を上げてください———」

ゆっくりと顔を上げた父をまっすぐに見つめ言う。

「お父さまもおじいさまも、お母さまのことをとても愛していらっしゃった……私、そんなことも知りませんでした」

「美寧………だからと言って、なんの罪もないおまえを巻き込んでいいわけではなかった………」

「………かもしれません。確かに、幼い時はお父さまやお兄さまにあまりお会いできなくて、寂しいと思っていました。でも私、おじいさまと暮らしていたことを、後悔したり恨んだことはないんです。だって、幸せだったんですもの……おじいさまは私のことをとても愛してくださいましたから———」

「それは間違いじゃない。色々あったが、おじいさまは確かにおまえのことを何より大事にしていたから」

「はい。———だから余計に、当麻の家に戻って来たことを寂しく感じてしまったんです。兄さまはいらっしゃらなくて、お父さまもお忙しくて………たまにお会いしても、私のことを疎んでいらっしゃるように見えて………」
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