耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「それはっ、………本当にすまなかった、美寧………」

「でも、もういいんです。お父さまが私のことを『大事な娘』だとおっしゃってくださっただけで十分です」

「美寧………」

「嫌われていなかった。娘だと思われていた。それだけでもう………」

「嫌いなんて!———あるわけない。そうじゃなかったら、おまえのことを養子にしたいという義父の頼みを、断り続けたりしなかった。……そのせいでお祖父さまはあんなことを思いついたのだろう。昔から懇意にしている学校経営者の孫を養子に貰い、おまえをその養子に嫁がせて、杵島家に置いておく、なんて………」

「それが颯介くん……」

「ああ、そうだ。神谷颯介だ。彼のことはおまえも知っているんだろう?」

父の口から颯介の名前が出た瞬間、美寧は思い出した。
颯介が父に自分の居場所を連絡したということを。そしてその彼と、自分が何をしたか、を。

体が震えた。

その時、大きな手が美寧の背中をそっと撫でた。
その手に励まされ、美寧は震える声を絞りだす。

「そう…ですが、………私が一緒にいたいのは颯介くんじゃない……れいちゃんなの…彼といたいのですっ!」

それまで美寧のことを見つめていた父の目が、彼女の隣に移動する。そして、怜のことをじっと見つめた。

父の視線の先にある怜のことを振り仰ぐ。すると、怜の方も美寧の父から視線を逸らさず、じっと見つめ返している。
二人の間には目には見えない糸がピンと張っているようで———。

(そうだわ……お父さまは、れいちゃんと私のことを反対なさってるんだった………)

そうでなければ怜の研究の邪魔をしたりしない。

父が怜に何かひどいことを言ったらどうしよう。
そんな不安が美寧を焦らせる。
< 304 / 427 >

この作品をシェア

pagetop