耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
悪いことを言われるとばかり思っていたので、よもや、『ありがとう』という言葉が聞けるとは思っていなかったのだ。

「私が至らないばっかりに、またしても娘の異変に気付かなかった。私はまた同じ過ちを犯すところだった………」

顔を歪め苦渋を露わにした父が、更に言った言葉にもっと驚くことになる。

「黙っていなくなった時は驚いたが、翌週になって保護されている居場所が分かった時はほっとしたよ」

「「ええっ!」」

兄妹の声が重なった。そろって目を見開いている我が子達を気にすることなく、父は平然と語っていく。

「誘拐やろくでもない相手のところにいるわけではないと分かって、ひと安心した。美寧は熱を出していて、保護してくれた方の家で手厚く看病されている、と報告書にあったしな」

「父さん———」

「なんだ、聡臣」

「それは、父さんがほとんど最初から美寧の居場所をご存じだった、ということですよね………?」

「あ、……ああ………そういうことになる、だろうな」

「『だろうな』じゃありませんよ!———やっぱり。僕が出した報告書を目にされた時平然としていたのは、全部知っていたからなんですね!?美寧の居場所を」

「…………」

「初めて知ったかのようなフリをされて、その(じつ)、父さんは自分で美寧のことを調べていたんじゃないですか!」

「………当たり前だろう。いくら不甲斐ないとはいえ、私は美寧の父親だ。娘が一緒にいる相手のことを知る権利くらい、父の私にもあるだろう」

(それ……同じようなことを、お兄さまも言ってらっしゃったような………)

どこかで聞いたような台詞に小首を傾げる美寧。
反対に聡臣は父に向って声を荒げた。

「はっ、どの口がそんなことをおっしゃる!『おまえに任せる』とおっしゃったのは、ご自分がすべて調べられた後だったからなんですね!?」

「『おまえに任せる』と言った後は、私が手配した調査員は引き上げたが?」

「父さんっ!」

眉を吊り上げ自分を睨む聡臣を一瞥すると、父は美寧が失踪した直後のことをしぶしぶ話し始めた。
< 307 / 427 >

この作品をシェア

pagetop