耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
父曰く、許婚との顔合わせの前日、突然いなくなった美寧を父は探していた。
自宅の管理の為に雇っている従業員たちはもちろん、専門の調査員を雇って捜索した結果、家から電車で一時間ほど離れた場所で暮らしていることが分かった。

調査報告書に【体調不良のため療養中】という記述があった為、体調が回復したら戻ってくるだろうと思っていた。
が、どれだけ待っても戻ってこない。

「前にも訊きましたが、それならどうして美寧を迎えに行かなかったんですか!」

聡臣の指摘に、父はふぅっと短い息をついた。そして言った。

「行ったよ———」

「え?」

「迎えに行ったのだ、美寧を」

「「ええっ!」」

兄妹の声がまた重なる。美寧は呟いた。

「うそ……いったい、いつ………」

「おまえがいなくなった翌月。………私が行った時、ちょうどおまえは庭に出ていた」

「………全然気付きませんでした」

まさかそんなに早い段階で、父が自分のところまで来たと思わなかった。
驚きのあまり呆然とする美寧に代わり、兄が父に問いかけた。

「そこまで行って、どうして………声をかけなかったのですか?」

「かけられなかったのだよ……うっかり見入ってしまって、な」

「見入って………?」

「笑っていたのだ………」

「は……?」

「塀の隙間から見えた美寧は笑っていた。とても嬉しそうに。楽しげに———それを目にした時、思ったのだよ………『最後に美寧の笑顔を見たのは、いったいいつなのだろう』とね」
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