耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「美寧の笑顔………」

「ああ。だが、まったく思い出せなかったよ。そのことに愕然とした。あんなに幸せそうに笑う美寧を見たことがないなんて………」

「父さん………」

「途中で美寧が呼ばれ、その時に相手に向けた笑顔は、それまでよりも何倍も幸せそうな笑顔で………私にはそんな顔を見せたことはなかった」

「お父さま………」

困惑する娘に向かって、父は微苦笑を浮かべ言った。

「美寧が私を見る顔は、いつも不安そうにうかがうものばかりだ。娘の笑顔を思い出せない。娘を笑顔にすることも出来ない。そんな父親が、娘を愛する人から引き離すことなんて出来ない」

「あいする…ひと………」

「すぐに分かったよ。おまえは彼のことが好きなのだと」

「どうして………」

(さや)が私に向けたものとまったく一緒だったからな」

懐かしそうに、そしてせつなそうに瞳を細めた父は、やるせない溜め息をついた。

「おまえが———美寧が良いなら良いと思ったのだ。幸せそうな笑顔をもう曇らせたくなかった。だからその時は声をかけずに帰った」

「声くらいかければ良かったじゃないですか。無理に連れ帰るつもりはない、と言っておけば、美寧だって………」

聡臣の声には、少し納得がいかないという不満が滲んでいた。そんな息子に「おまえだって分かるだろう?」と父が言う。

「何がですか?」

「他の者には幸せそうに笑っていた美寧の顔が、自分を見た瞬間に凍り付く。おまえなら、そんなところを見たいと思うか?」

「………嫌です」

聡臣は渋い顔になった。
自分が藤波家を訪れた時の、美寧の態度を思い出したのかもしれない。
< 309 / 427 >

この作品をシェア

pagetop