耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「研究の邪魔とは?」

父の誤魔化すような口ぶりに、美寧はムキになる。

「れいちゃんが研究出来なくなるようにしたのは、お父さまじゃないの?!……れいちゃんの研究の費用を出している酒造を買収して、研究費の打ち切りをさせるように仕向けて………」

「ミネ………どこでそれを………」

研究費の打ち切りのことを美寧が知っていると思わなかった怜。彼がこぼした言葉に、聡臣が「僕が話しました。調査書にあったので」と返す。

「何の話だ?」

「ご存じなかったのですか?」

いぶかしげに訊いてきた父に、聡臣が「まさか……」という。

「私は聞いていない」

今度はハッキリと断言した父に、聡臣が説明する。

「僕が貰った調査報告書には、『藤波研究室で行っている、酵母ゲノム解析研究の受託先である月松酒造は、年内でその受託の打ち切りを決めた』とあったのです」

「月松酒造………」

「はい。うちがこれから買収する予定の酒造です」

「そうか。それで………」

「どういうことですか、父さん。父さんが手を回したのでは………」

「そんなことはしない。私は父親としては不甲斐ないが、Tohmaグループの最高責任者だという自覚と自負はある。仕事にプライベートを持ち込んだりはしない」

「じゃあ、いったい………」

「詳しくは調査しなければ分からないが、きっと月松側が買収の条件をよくするために少しでも赤字を減らしたかったのだろう。どのみちTohma(うち)の傘下に入るのなら、独自の酵母の研究をする必要もなくなると、踏んだのだろうな」

「なるほど……それで………」

兄と父が頷き合っているのを見て、美寧は思わず声を上げた。

「じゃあ……このままれいちゃんは研究が出来ないままなの!?」

父が仕向けたことでないとしたら、「そんなことはやめてください」と父を説得しても無駄。
父が美寧の為にそんなことをしたせいではなかったのは嬉しいが、怜にとっては研究が出来ないならどちらでも同じだ。

(いったいどうしたらいいの………)

研究が出来なくなったら今の大学を追い出されるかもしれない。そしたら彼はきっとフランスに行ってしまう―――

美寧は目の前が真っ暗になった。
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