耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[2]


カーテンの隙間から差し込む光に、『朝が来た』ことを知る。
かぎ慣れた畳の匂いに安堵しながら、ゆっくりと瞼を持ち上げた。

美寧は目に入った景色に、一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。

(そうだ…おじいさまのおうちだったんだわ………)

真新しいイ草の匂いが美寧に「怜の家」だと思わせたのだ。

(そういえば、最初にれいちゃんちで目が覚めた時も『おじいさまの家』だと思っちゃったものね)

あの時とは逆だということがなんとなくおかしくて、美寧はクスっと小さな笑いをこぼす。そしてベッドから体を起こすと、住み慣れた“自分の部屋”を見渡してみた。

(全然変わってない………)

美寧の部屋は、二階の南東側にある十畳の和室。
ベッドの下に敷かれたペルシャ絨毯。出窓にかかるカーテン。美寧はその出窓から庭を見下ろすのが好きだった。

ベッドから降りて出窓に近づく。そしてカーテンに手を掛ける。カーテンが開く音と同時に、眩しさに瞳を眇めた美寧は、次の瞬間思わず「あっ!」と声を上げた。


***


急いで階段を駆け降り、居間に飛び込む。そしてその勢いのまま、テラスの扉を開いた。

「わ~、きれいっ………」

思わず声に出した拍子に、口から出た息が真っ白になってゆっくりと上っていき、空に溶けた。

外は一面の銀世界だった。

雪で覆われた地面。葉の代わりに雪をまとわせた落葉松(からまつ)。粉砂糖をふりかけられたようなもみの木。白樺の幹は、雪景色に見事になじんでいる。

朝陽を受けてキラキラと輝く冬の庭は、静かで厳かで、それでいて生命の力に満ち溢れている。

「ミネ———」

聞こえた声に振り向くと、怜が立っていた。

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