耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「………だい、じょうぶ………」

目が腫れているのは、寝不足のせいというよりもあの“大泣き”。
父から聞いた話がどれもこれも衝撃すぎたせいで、すっかりその前のことを置き去りにしていた。

自分にはまだやるべきことがある。ちゃんと怜に伝えないといけない言葉が———。

「あのね、れいちゃん………」

「はい」

「あのね……あの、私………」

今度こそ泣かずにちゃんと言わないと。

「れいちゃん……ごめ、」

言いかけた時、ドアが開いた。

「ただいまでございます———あら、まあっ、いとさん(・・・・)

「歌寿子さんっ!」

ドアを開けたのは歌寿子だった。手には重たそうな買い物袋を提げている。

「………おじゃまさんのようだしたね」

そう言ってドアを閉めようとする歌寿子に、美寧は今の自分の状態に気付いた。
頬には怜の手。至近距離で顔をのぞきこまれていて———それはまるで“キスする直前”のよう。

「やっ、ちがうのっ…これはっ………」

「うちはかましへんけどな、いとさん。旦那様(だんさん)聡坊(おみぼん)さんはえらいショック受けはるやろさかい、十分気を付けとくれやす」

「えっ!……えっと……う、うん……はい。気を付けます」

何となく釈然としないものの、つい子どもの頃の名残で、歌寿子の“教え”には素直に頷いてしまう。もしここであれこれと言い訳をすると、永遠に終わらない“お説教”をくらうのだ。

「有村さん、運びますよ」

真っ赤な顔で微妙な顔をしている美寧の横で、立ち上がった怜がさりげなく歌寿子の荷物を受け取る。

「おおきに。助かります」

「どちらに運んだらいいのですか?」

「お台所に———こっちだす」

歌寿子は怜を台所へと案内した。


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