耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
***


ソファーが置いてある居間(リビング)とひと続きになっている食堂(ダイニング)。ゆうに十人くらいはゆったりと座れそうなほどの大きなテーブルを、四人で囲む。

テーブルの上には、オムレツ、サラダ、野菜スープ、パン、紅茶、がそれぞれ人数分乗せられている。

「急に来たのにこんなにたくさん。悪いね、歌寿子さん」

総一郎が言った言葉に、給仕を終えたばかりの歌寿子が、「いいえ、これはうちやのうて———」と、朝食を作った人を口にした。

「え!これを藤波さんが!?」

驚いた声を上げたのは聡臣だった。

「ええ、そうだす。藤波さんが『作ります』言うてくれはって、うちは材料やら道具やらを出したくらいで、あとはなんも」

「そうか———ありがたく頂くよ、藤波君」

「はい。ミネも一緒に作ったので、是非」

「美寧が!?」

大げさに驚いた聡臣の向かいで、美寧が頬を膨らませる。

「お兄さまったら、そんなに驚かれなくても………」

「ああ、悪い……でも、おまえが料理をするなんて……しかも“この家”で……」

「サラダは全部私が作ったのよ?」

自慢げにそう言ったけれど、野菜を洗って切っただけ。
そのことを思い出して少し恥ずかしくなり、「れいちゃんが作ったドレッシングは美味しいのよ」と付け足しておく。

「でも卵は全部、ミネが割ってくれましたよね」

「美寧が?!卵を!?」

「十個全部きれいに割れましたよ。殻はひとつも入っていません」

「そうですか……正直驚いたな……。この家じゃいつも、祖父さんが『美寧は危ないから』って言って台所には入らせなかったので………」

「そうだしたなぁ………その昔、清香(さやか)様がお小さかった頃にうっかりお台所で火傷をしはって、それが跡になってしまわれたんを、大だんさんはずっと気にしとられたんだす。それがあってか、いとさんのことは台所に入れないよう、大だんさんからきつく申しつけられてましたんや」

「そうだったんだ……でも、私もそれにずいぶん甘えちゃってたから………」

聡臣と歌寿子と美寧がそれぞれ口にする思い出話に頷きながら、淹れたての紅茶に口をつけた総一郎が、突然「あ、」と口にした。
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