耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「大丈夫ですか、お父さま……紅茶が熱すぎましたか?」

「いや、大丈夫だ。………この紅茶が……」

「紅茶がどうかされましたか?」

「清香が淹れてくれた味と同じだ、と思ってな」

「えっ!お母さまと!?」

驚いた声を上げた美寧。すると、ティーポットが乗った配膳カートを押していた歌寿子があっさりとその理由を言った。

「そりゃそうだすわ。奥様(ごりょんさん)にもお嬢様(いとさん)にも、紅茶の淹れ方をお教えしたんはうちやよって」

「えっ、お母さまにも!?」

「そうだす」

「紅茶の味が(さや)と同じなのは、歌寿子さんが淹れてくれたから……」

「それはちがいます(ちゃいます)

手にしたカップの中を見ながらしみじみと呟いた総一郎の言葉を、歌寿子はあっさりと否定した。

「この紅茶を淹れたんは、うちやのうて、いとさんだす」

「えっ……そうなのか?美寧」

目を見張った父に訊かれ、美寧は小さく「はい」と頷く。

「そうか……そうだったのか……美寧が……」

奥様(ごりょうさん)の紅茶の味が恋しうならはったら、これからはいとさんに入れてもらったらええんだすよ、旦那様(だんさん)

「………そうだな」

総一郎はしんみりと頷いたあと、美寧を見て「とても美味しいよ、美寧。また淹れてくれるか?」と言う。

美寧の瞳がみるみる潤んでいく。

瞳に溜まったしずくをこぼさないように気をつけながら小さく頷くと、目元を緩めた父が仕切り直すように「すまんな、折角の料理が冷めてしまう。食べようか」と言った。
そうして、歌寿子以外の四人全員で「いただきます」をした。

朝食準備の時に、美寧は歌寿子にも一緒に食べようと声をかけたが、歌寿子は自宅で食べてから出てきたから要らないと言う。

残念そうにする美寧に、「久々にいとさんの淹れはった紅茶をいただきとうおます」と言ってくれた。
それで、美寧が朝食の時に紅茶を淹れることになったのだ。

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