耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
送迎車の運転手に礼を言って車を降りた後、美寧は藤波家の門をくぐる。
家の中に入った瞬間、美寧は「ほぅっ」と深い息をついた。

湧き上がるのは『やっと帰ってこれた』と、心の底から安堵するような、そんな気持ち。
昨日この家を出てから一日しかたっていないというのに、まるで何か月も留守にしていたように感じた。


家に上がったあと、二人は“いつものように”着替えや手洗いをし、窓を開けて丸一日留守にした家の換気をし、そして、“いつものように”温かい飲物を用意した。

いつもよりも濃いめに落としたコーヒーは、睡眠不足と寝起きの美寧をシャッキリさせるため。怜はそのままブラック、美寧は甘めのカフェオレで。

そして“いつものように”ソファーに並んで座りながら、それを飲む。
それは、“いつもと変わらない”はずなのに、いつもとは違う。
二人とも一言も口を開かず、黙ってコーヒーを飲んでいた。


美寧は家に入ってすぐ、怜に『ごめんなさい』を言おうとした。けれど、それを口にする前に、彼が美寧を止めたのだ。

『ミネ、待ってください』

『え?』

『俺もあなたときちんと話がしたい。たくさん話を聞きたいし、聞いて欲しいこともある』

『聞いて欲しいこと………れいちゃんが?』

『はい』

美寧の目を見てしっかりと頷いた怜。そして、言った。

玄関(ここ)は、じっくり話をする場所には適していません。ですから、いったん家にあがって———準備をしましょう』

『準備………?』

『はい。“いつもの”準備、です』

怜の提案に、美寧はおずおずと頷いた。


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