耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「それにしても意外でしたね」

しんみりとした空気を一掃するかのような明るい声につられ、怜の腕の中から顔を上げる。

「意外って?」

「あなたのお兄さま、———聡臣さんの弱点です」

「あっ、」

思い当たることがあって声を上げた美寧に、怜は微笑みながら頷いた。

「聡臣さんが『ビールが苦手』だとは、思いませんでした」

「うん、そうだよね。私も初めて知ったよ………」

意外だったのは、兄はビールが得意ではない、ということ。
注がれたビールに口をつけてすぐに『苦い』と顔をしかめた聡臣は、父に『おまえはまだビールが苦手なのか………』と渋い顔をされていた。

「お兄さまが甘いものをお好きなのは知ってたんだけど」

まさか兄が、ビールが苦手だとは思いも寄らなかった。
けれどそれも、大人になってから兄と一緒に暮らしたことのなかったせいだと考えれば頷ける。

後継者という兄の立場上、お酒を飲む機会は少なくないはず。普段人前では何食わぬ顔で飲んでいるお酒が実は苦手なものだと知ってしまった今、兄も兄なりに苦労があるのだろうな、と美寧は気が付いた。そんな発見すら新鮮だった。

「お土産のクッキーを、特に喜んでくださいましたよね」

「うん、ほんとに」

美寧の眉が微妙に寄る。そんな美寧の表情を見た怜が、「くくっ」と堪え切れないように笑い声をもらした。
美寧は、怜が何を思い出して笑ったのかすぐにピンと来た。軽く頬を膨らませながらじっとりと彼を睨む。

父の家に向かう前に美寧は、怜に手伝ってもらってクッキーを焼いた。

それを手に父の家に着いたのはちょうど三時。居間にいた兄に『今朝焼いたばかりなの』と言ってそれを手渡した。

すると———

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