耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
『これを美寧が………』

垂れ気味のくっきりとした瞳を大きく見開いて、手渡された缶の中を凝視した兄。
『食べてもいいか?』と訊いておきながら、美寧が返事をする前にもう、缶の中からひとつを摘まんで口の中に放り込んでいた。

『———美味しい!』

ぱぁっと瞳を輝かせた兄は、更にひとつふたつと口の中へ放り込んでいく。

『お兄さまに頂いた紅茶の葉で作ったのよ』

『僕のあげた紅茶………』

呟いた兄は、次の瞬間、勢いよく美寧を抱きしめた。

『なっ、……お兄さま!?』

『おまえは可愛いだけじゃなくて、こんなに美味しいお菓子を作れるなんて!———僕の妹は本当に最高だ!』

『きゃっ』

驚く美寧を抱え上げてクルクルと回り始める。

『おっ、降ろしてお兄さまっ!』

こどものように抱え上げられるだけでも驚くのに、それを怜に見られているなんて恥ずかしくて堪らない。

『お兄さまっ!!』

本気で怒りかけた時、『それくらいにしておきなさい、聡臣(あきおみ)』と低い声が聞こえた。
居間に入ってきたのは父だった。

『お父さま………』

動きを止めた兄に抱えられたまま、父を見る。

『それ以上やると美寧に嫌われるぞ』と父親にたしなめられた聡臣は、『それはイヤだ』と言って美寧を床に下ろした。

クッキーの缶に視線を遣った父が『私もご相伴にあずかってもいいか?』と言い、折角の機会だからと美寧が紅茶を淹れて、四人で楽しいティタイムを過ごしたのだった。

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