耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー

兄のことは大好きだけれど、自分への溺愛ぶりに少し複雑な気持ちになってしまう。いつまでも美寧のことを小さな女の子だと思っているのが心外だ。

(だけどお兄さまは、きちんとお父さまのお手伝いをしていらっしゃるんだもの………)

自分の何倍も大変な役目をこなしている兄が喜んでくれるのなら、少しくらい子ども扱いされても我慢すべきかもしれない。

思わず口から溜め息を漏らすと、「どうかしましたか?」と顔をのぞき込まれた。

「ん………」

美寧は何かを考え込むように俯く。

「なにか悩みや心配事があるなら言ってくださいね?俺で役に立てるか分かりませんが、一緒に考えましょう」

「れいちゃん………」

美寧が顔を上げると、涼しげな瞳は柔らかく細められている。

(そうだった。『何かあったら一緒に考えよう』って約束したもんね………)

いつかの「約束」を思い出す。
美寧は今朝からずっと考えていたことを口にした。

「私……自分ばっかりこんなにのんびりしてていいのかなって………」

「自分ばっかり、とは?」

「お父さまもお兄さまも、今頃お忙しくしていらっしゃるのに………」

「ああ———」

「お父さまは『大丈夫だから今日は帰りなさい』っておっしゃってくださったのだけど……お兄さまはもちろん、私だってこれまではお客様にご挨拶だけはしてたのに………」

例年、父の家には多くの人が「新年のご挨拶」に訪れる。新年を迎えた元日と二日は親族、そして三日から五日くらいまでは仕事関係の人々が。
夕方からは『当麻一族会』と呼んでも良いほどの宴会も開かれたりする。

次々にやってくる客人を迎える正月は、迎える側にとってはとってほとんど「仕事」といってもいいくらいの忙しさなのだ。

幼い頃は父の家から離れて暮らしていた美寧も、年末年始は父の家に戻り、この「ご挨拶」に顔を出していた。
とはいえ、美寧は「後継者」の兄とは違い、最初少しだけ顔を出しただけですぐに自室に戻らされていた。そのせいでいまだ父の人間関係に疎い。

「だけど、私がいてもきっとお邪魔になるだけだよね………」

しょんぼりと眉を下げる美寧に、怜は義父との会話を思い出した。

当麻家に泊まることが決まって、美寧が風呂に入ると席を外していた時のこと———

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