耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
『急に泊まらせてすまないね、怜君』
『いえ、こちらこそ………お言葉に甘えすぎてしまって』
『いいんですよ、藤波さん———じゃなかった、怜さん。父のお酒に付き合って頂けただけで僕は大助かりです』
『父の酒には付き合いきれない』と肩を竦めた聡臣が、『というか、美寧と長くいられて嬉しいですし』と垂れ目を細める。
『本当はもっとゆっくりしていってほしいのだが、明日の午後からここは騒がしくなる。昼前に出れるように車を手配しておくから、美寧をよろしく頼むよ、怜君』
『はい。分かりました』
そう返事をした怜は、少し前から気になっていたことを総一郎に訊ねた。
すると———
「お父さまはあなたを守りたかったのですね」
「え?」
「『清香の二の舞にしたくないから』、とおっしゃっていましたよ」
「お母さまの二の舞………?」
眉を寄せてじっと怜を見あげてくる美寧に、怜は昨日総一郎とした話を聞かせた。
怜が義父に訊いたのは、『自分も美寧も結婚の報告と挨拶を当麻側の親族にしなくてもいいのか』ということ。自分には親戚はないので結婚式や披露宴などにこだわりはないが、大きな会社のトップの娘である美寧はそうもいかないだろう。
怜の問いかけに、総一郎は『結婚式は二人の好きにしていい。必要な親族には、頃合いを見て紹介しよう』と言った。
『本当に明日はいいのですか?』
新年の挨拶に来た親族と、軽く挨拶くらいはしておいた方がいいのかと思っていた怜。
けれど総一郎は言った。
『親族や会社の重役の中には、あれこれとうるさいことを言う者も少なからずいるだろう。面倒なことにならないよう根回しをしておくので、それまで少し待ってくれるか?』
『———はい』
頷いた怜に、総一郎は言った。
『美寧を社交に出さなかったのは、清香の二の舞にさせたくなかったからだ』
清香が出産後の体調が悪い時期でも頑張っていたのは、夫である総一郎の立場のことを考えたこともあっただろうが、もしかしたら横から色々と言われたせいかもしれない。あんなに二人目を欲しがったのも、もしかしたら親戚連中の遠回しな圧力があったのではないか。
清香が亡くなった後に、色々と小耳に挟んだことで総一郎はそう思うようになったという。