耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「そんなことって………」
「お父さまは、お母さまのような苦労をあなたにはさせたくなかったのでしょうね」
「それで………」
美寧は自分が社交から遠ざけられていた理由が、そんなことだとは思いも寄らなかった。
「後継者」ではない自分は父には必要ないのだと、勝手に思い込んでいた自分が恥ずかしくなる。と同時に、想像していた以上に深い父の愛情に、美寧の胸が熱くなった。
瞳を潤ませる美寧を見降ろしながら、怜の頭には総一郎とした会話の続きが浮かんでいた。
『それに、美寧の結婚を報告するには今はまだタイミングが悪い』
総一郎に息子の他に娘がいることは、それなりに知られていて、美寧が成人する少し前あたりから「紹介」を求められることが度々あった。
その時は『決まった相手がいる』と許嫁のことを仄めかして断ってきたが、どうやらそれがなくなったことが早速どこからか漏れたようだ。当麻家がその身を置く世界は、情報網が大事な役割を担っているからだろう。
総一郎はこの一か月足らずで、数回『お嬢様のお相手にいかがですか?』と打診を受けたという。
「許嫁」との結婚が立ち消えになってからすぐ、「他の男と結婚した」となれば、不躾な人種や口さがない連中が騒ぎ立てるかもしれない。総一郎はそんな場所から美寧を遠ざけておきたいようだった。
怜はこの話は美寧にはしなかった。敢えてするべきものでもないと思ったのだ。言えばきっと『自分が許婚を断ったせいで父に迷惑が』と気に病むだろう。
総一郎が『こちらのことは私と聡臣に任せておいてくれないか?』と言ったので、それに従うことにした。