耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「ごめん、ミネ……」

さっきまでとは打って変わって、優しく伺う声に呼ばれる。美寧は無言で顔を左右にブンブンとふった。

珍しく「ごめん」とラフな口調で謝る怜。垣間見える「素」の部分に、取り繕うことが出来ないほどに後悔していることが伝わってくる。

けれど、美寧は顔を上げられなかった。
怒りや悲しみ、感情のまま怜を詰ってしまった後悔、そして少し前にされたことの羞恥心。複雑な気持ちが胸の中に渦巻いて、どんな顔をしたらいいのか分からない。

黙ったまま、美寧がぬいぐるみに顔を(うず)めていると、体の上から怜が退く気配がした。

「最低だな———」

怜が吐き捨てるようにそう呟き、「はぁ」とうめくように息を吐く。

あまりにも苦しそうなうめき声に、恐る恐るぬいぐるみから顔を上げると、ソファーに座る怜が膝についた腕にもたれ、項垂れていた。

「俺は自分がこんなに嫉妬深いと思わなかった………勝手に勘違いしてカッとなって、ちゃんと理由も聞かないで見境もなく………本当に最低だ………」

美寧はゆっくりと上体を起こした。乱れた洋服の裾をさりげなく直しておく。
起き上がった美寧に少しだけ顔を向けた怜。真ん中にしわを作った眉が、情けなさそうに下げられていた。

「怖かったですよね………」

問いかけられて、首を左右にふる。
さっきまでの獰猛さは消え、いつもの優しい声色にホッとする。強張っていた体から力が抜けると同時に、瞳の縁に溜まっていたしずくがぽろりとこぼれ落ちた。

「ミネ………」

怜の手が美寧の方へ伸びてくる。頬に指先が触れる瞬間、ピクリと肩が跳ねた。

「………すみません。俺には(ふれ)られたくないですよね………」

怜が伸ばしていた手を引っ込めようとする———が、美寧はすばやくその指先を掴んだ。

「触られたくない、なんて思ってない!」

指先を掴んだ手に力を込め、反対の手で包むように深く握り直す。
美寧は、怜を見上げて言った。

「前も言ったよね?れいちゃんだから怖くない……れいちゃんに触られるのが好きだって———」

「………」

「確かに、さっきはちょっと……いやだった………」

「すみま、」
「でもっ、———それはれいちゃんが何を怒っているのか分からなかったから!一方的に責められてる気がしていやだったの………」

「本当にすみませんでした………」

項垂れながら謝る怜。「どうしたら許してもらえますか?」と言われ、美寧は黙り込む。
< 399 / 427 >

この作品をシェア

pagetop