耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
そもそも自分はもう怒っていない。だから『許す許さない』なんてない。
けれど、あまりにも怜が申し訳なさそうにしているので、かえって何か「許す条件」を付けた方が良いのかもしれないと思う。

黙ってそんなことを考えていた時、怜の瞳の奥が揺らぐのが見えた。
瞬間、口から言葉がついて出た。

「じゃあっ、……今度お父さまになにかお料理を作ってくれる?」

「……お父さまに?」

「うん。お父さまはお兄さまと違って、甘いものはそんなにお好きじゃなさそうだったから。今度はれいちゃんが、お父さまになにか元気になれそうなお料理を作ってあげてほしいの」

「それは構いませんが………」

『許す条件』としては甘すぎると感じたのだろうか。怜はまだ眉を下げている。
美寧はそれを見て条件を足してみる。

「ちゃんとお父さまのお好きなものを調べないとダメなんだよ?こっそり調べてびっくりさせたいんだもの」

そう言う美寧も、父の好物を知らない。好きなものだけでなく嫌いなものも。どんな趣味があってどんなことが苦手なのかも———。そのことがひそかに「寂しい」と思っていた。

「もちろん私もお兄さまに訊いてみたりするけど、れいちゃんもちゃんと調べてね?お仕事もあるから結構大変かもしれないよ?」

敢えてそんなふうに脅かすような口ぶりで言うと、怜が頷いた。困ったような微笑みを浮かべて。

「だからね?『私の為しかお料理をしない』っていう約束を変えてほしいの」

「それは………。今回だけ『例外』でも良いのですが………」

怜の申し出に、美寧は首を左右にふる。そして、怜の手を握ったままの両手に、ぎゅっと力を込めた。
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