耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
怜は手に持った箱をそっと目の前のローテーブルに置くと、隣ではにかんだ笑顔を浮かべる美寧を抱き寄せた。

「ありがとう、ミネ」と囁いて、小さな頭にくちづけを落とすと、美寧が胸元に額を擦りつけてくる。

(……そんなに可愛いことをされると、チョコだけでは我慢できなくなるな………)

胸のうちで呟くが口には出さない。
彼女が自分のために一生懸命作ってくれたものを、もう少しゆっくりと味わうべきだろう。

怜は体の底から沸き上がってくるものに、ひとまず蓋をした。


温もりと柔らかさを惜しみつつ腕を(ほど)き、「もう少し食べてもいいですか?」と訊くと、「もちろん!」と大きな笑顔。つられてゆるんだ顔で「ありがとうございます」と返してから、怜はローテーブルに置いた箱に手を伸ばした。―――が、次に耳に入った言葉にその手を止めた。

「でも本当に良かった……涼香先生にちゃんとお礼をしないと」

「―――ユズキ?」

「うん。チョコ作りは涼香先生が誘ってくれたの。水曜日は航さんが午後から研修で留守だから、一緒にチョコ作りしないかって」

水曜日は美寧のアルバイト先の喫茶店は定休日。そして涼香のクリニックも午後は休診だ。

「それでユズキと……」

「うん。涼香先生が『これなら私でも教えられるから』って言ってくれて。あ、涼香先生は教えてくれただけで、これはちゃんと私が作ったやつだよ?」

「そう…だったのですか……」

「どうかしたの、れいちゃん?……何か変なところでもあった?」

途端に顔を曇らせた美寧に、怜は「いいえ」と首を横に振った。

「変なところはありませんよ?ただ……」

「ただ?」

「ただ……あなたからバレンタインを頂けると思っていなかったので―――」

怜がそこまで言った時、キッチンから「ピピピー」と電子音が聞こえてきた。


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