耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「すみませんでした……」

怜の謝罪に首を振る。
自分のことを想ってくれる彼の気持ちが、『我がまま』なんかであろうはずがない。

「れいちゃんは、我がままじゃないよ?」

そう言ったのに彼の顔は元に戻らない。いつもはスッと真横に伸びた眉尻は、今は下がったまま。

彼は首を横に振って言った。

「俺の我がままのことも、ですが、……昼間のことも」

「昼間のこと?」

何のことを言われているのかピンと来なくて、美寧は首を傾げる。

「怖がらせてしまって、すみませんでした」

「———あっ、」

『昼間のこと』

それが怜の部屋でのことをさしているのだと、思い至る。

ベッドの上で見上げた怜の瞳。あごをくすぐる髪の毛。首筋をなぞる唇。大きな手が素肌を撫でる感触———

思い出した途端、美寧の顔がみるみる赤くなっていく。


初めてのデパコス。涼香とのショッピングや女子会トーク。そのあとの怜とのデート。

この数時間で色々な出来事があった美寧は、すっかりその前に何があったのか忘れていた。
いい意味で“気分転換”出来たのだが、呼び鈴が鳴る直前の出来事をすっかり忘れていたなんて———
今さらながら気まずい気持ちが込み上げる。

真っ赤になりながら視線をうろうろとさ迷わせ、困ったような恥ずかしいような複雑な顔になった美寧。

「怖がらせてしまったこと、泣かせてしまったこと、本当にすみません」

その言葉になんて返したらいいのか分からず、左右に首を振ることしか出来ない。

怜のことが怖かったわけじゃない。ただ恥ずかしくてびっくりしただけ。
ちゃんとそう言わなければ———

そう思った時、少し離れたところから「ワンワンワンッ」と大きな鳴き声が聞こえてきた。

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