耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
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澄んだ秋晴れが広がる日曜日。
怜が大学へ出勤しないことが多いこの日にあわせて、美寧もアルバイトのお休みを貰うことが多い。
ゆえに、今日は一週間の中で唯一二人揃った休日である。

特に予定のない休日は、美寧の朝はいつもより遅い。昔から低血圧で朝は苦手なのだ。

とはいえ、怜と一緒にお弁当を作るようになってからはずいぶん早起きに慣れてきた。おかげで最近は、ある程度の時間で目が覚めるのだが———

テーブルについた美寧は、久々にしょんぼりと肩を下げていた。


「ごめんね……私がお寝坊したから、遅くなっちゃって………」

十一月に入ってからもう十日が過ぎ、朝晩はずいぶん気温が下がるようになった。中でも今朝はぐっと冷え込みが増したせいで、布団の温もりが心地良くて、美寧はなかなか起きられなかった。

いつものように怜が縁側の雨戸を開ける音を遠くで聞いた気がする。けれどそれは今の美寧にとって安心できる音の一つで、ガタガタと鳴る雨戸の音を子守歌にまた心地良い眠りの中へ落ちてしまった。

結局、朝食には遅すぎる時間に覚醒し、思いのほか寝過ごしてしまったと慌てて起きて来た。

そんな彼女の寝ぐせでほつれた髪を怜は優しく()きながら、『ちょうど良いところでした。昨日買ったベーグルでブランチにしましょう』と言い、少し乾いた小さな唇に、羽のような口づけを落とす。

唇を離しながら『おはようございます』と言い、『あと少しで出来上がるのでリビングで待っていてください』と微笑んでキッチンに行ってしまった。


(……なんでだろう)

いつもと何も変わらないような怜の態度。それなのに、美寧には密かに引っかかっていることがある。
この引っ掛かりはもしかしたら自分の思い違いで、おかしいと思うこと自体がおかしいことなのかもしれない。

もやもやとする気持ちを抱えながらも、それを口に出して怜に確かめることが出来なかった。


何もかもよく分からない。美寧にとって誰かと恋人同士になるのは、二十一年間生きてきて初めてのことなのだから。


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