偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
前回のお稽古でとうとう、私が御津川氏と結婚したのだとバレてしまった。
絶対に言いたくなかったのに。

『次からはお昼の稽古に変更してください。
わかりますね?』

なんて、講師の方から言われたら承知するしかない。

いままで通っていた夜の教室は勤め帰りの人間が多く、当然ながら普通家庭の生徒が多かった。
反対に昼の教室は社長夫人やご令嬢がほとんどだ。
そこでは、ヒルズのラウンジでおこなわれているような交流もある。
暗黙の了解として分けられた教室で御津川氏と結婚した私が、昼の部へ振り分けられるのは道理、なのでできるだけ隠しておきたかったのだ。

「……はぁーっ」

自分の部屋でパソコンを立ち上げ、ため息が漏れる。
メールチェエックして出てくるのは、お祈りメールばかりだ。

「条件を緩めてはどうですか、ってさ……」

転職斡旋のエージェントからのアドバイスに、さらにため息が落ちる。
最初から、FoSでもらっていたよりも給与条件は下げていた。
なのに、さらに下げろという。
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