偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
男は用意してあったタキシードではなく、自分で持ってきた衣装に着替えている。
それだけ、私の待ち人とは身長差があったし、なにより顔がよすぎる。
しかもわざわざ黒メタル眼鏡で、さらに顔面偏差値を上げていた。

「いまはそんなことを問題にしている場合か?
お前の婚約者だったら、さっき捕まったぞ」

「は?」

少し操作して投げられた携帯を慌ててキャッチする。
その画面には
【キャリアウーマンを狙った結婚詐欺師、逮捕!
被害総額は十二億円】
なんて文字と共に、犯人として彼の顔写真が載っていた。

「……はぁーっ」

私の口から重いため息が落ちていく。
薄々、そんなことじゃないかと思っていた。
貯蓄のこととか妙に訊かれたし。
ご多分に漏れず私も、ちょいちょいお金を渡していた。
でも私としては――夢を、みていたかったのだ。

「なんだ、意外と驚かないんだな」

ネクタイを結びながら、男は眼鏡の奥でまばたきを一回した。
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