偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
「ええーっ。
だってもう、慧護の面影あるし、絶対イケメンになると思うし。
それに私は、慧護の遺伝子が欲しいのー!」

純さんの叫びで、ふたり同時にはぁっとため息が落ちた。

慧護と結婚して三年が過ぎた。
仕事も育児も順調……と言いたいところだが、どっちもシッターさんや秘書などいろいろな人に助けてもらっている。

「そもそも、さっさと自分の家に帰ったらいいだろうが」

ちらっ、とリビングの隅に置かれている荷物に慧護の視線が向かう。
純さんは同じレジデンスの自分の部屋に行くことなく直接、うちに来た。

「だって最近、閑の奴、ますます人間離れしてきたんだもの」

はぁっ、と小さく、純さんがため息をつく。
大学院を卒業した閑さんは政財界で本格的に活動をはじめ、半ばカルト宗教の神的存在として一部の人間にあがめ奉られていた。

「まあ、それはわかりますけど……」

「もう、姉弟どころか同じ人間かも怪しいわ、あれ」

行儀悪くフォークを振り回す純さんには苦笑いしかできない。
彼女の気持ちもわかるだけに。
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