偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
「東峰は閑に任せておけば安泰だわ。
だから私は、私の幸せを追求するの。
と、いうわけで、救を私にちょうだい?
ねー、救?」

純さんにぷにぷにと頬をつつかれ、救がキャッキャと喜んでいるのはいいが、話がまた、元に戻ってきた。
くれ、と言われて猫の子のように、簡単に渡せるものではないのだ。
いや、猫の子だって新しい飼い主は選んでやりたい。

「それはちょっと……」

「ええーっ。
言うこと聞いてくれないんだったら、MITSUGAWAの株をちょっと……」

言い淀んでいたら、純さんの口角が僅かに持ち上がる。

「お前その、洒落にならない悪戯、そろそろヤメロよな」

はぁっ、と呆れたようにため息をつき、慧護がフォークを置く。
彼が純さんの申し出を断った翌日、自社の株価が一気に下がったのは純さん曰く、「ちょっとした悪戯」だったらしい。
純さんとしては悪戯でも、やられた方は堪ったもんじゃない。

そう。
きっぱりと振った慧護を、純さんは恨んでいない。
それどころか奪った私ですら。
まあ、ああいう純さんとしてはちょっとした嫌がらせはされたけど。
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