オフィスラブはじまってました
 ああっ。
 可愛い猫だったのにっ、と思いながら、振り向くと、白衣の男はまだ、さっきまで猫の頭があった位置で撫でるような仕草をしたまま止まっている。

 ちなみに、ひなとも移動したので、そこにはいない。

「……あとちょっとだったのに」
とぼそりと男はもらす。

 関わらない方がいい気がする……。

 でも、このままでは気になって眠れないっ、と思ったひなとは男に話しかけてみた。

「あのー、なにがあとちょっとだったんですか?」

 返事はないかと思ったが、男はまた月を見上げ、

「あとちょっとで思い出せそうなんだよ。
 さっき、いいアイディアが浮かんだんだけど、書き留める前に忘れちゃって。

 月を見ながら思いついたから、また月見てたら、思い出せそうな気がしたんだけどね。

 でも、今、猫を見た瞬間、また思い出せそうな気がしたんだよ。

 やはり、なにかを凝視すると集中できる気がする。

 月でも猫でもなくていいのかもしれない」
と言った男は月でも猫でもなく、ひなとの顔を凝視し始めた。
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