オフィスラブはじまってました
「じゃ、失礼しますー」
と言って、急いでバスを降りたひなとの耳には、実は、
「檜村部長、おはようございます」
というアグリッパの声は聞こえてはいなかった。
コンタクトがずれていたからだ。
あー、痛いなー。
最近、家でもずっとやってるもんなー。
眼鏡買わなくちゃ、と思いながら、ひなとはトイレに駆け込もうとした。
だが、背後からした、
「おはよう、ひなと。
焼け出されてからどうなったー?」
という陽気な声に引き止められる。
同期の萩谷雅士のようだった。
こいつはいつも、人が困ってるとき、陽気に話しかけてくるような……。
いや、そういう口調なんだろうが。
うーむ。
間の悪いやつめ、と思いながら、ひなとはコンタクトがズレているので、振り返らずに言う。
「大丈夫ー。
快適ー」
会話としては、あんまり成り立っていないので、同じく同期の村雨真希子辺りが聞いていたら、
「快適?
なにがよ」
と突っ込んで訊いてくるところだろうが。
物事をあまり深く考えないひなとと、ほとんど考えない雅士の間では、それで会話が成り立っていた。