幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~

「……え?」

 耳に心地(ここち)のいい,聞き覚えのある男性の声がして,あたしは振り返った。

 この声,もしかして……。

大智(たいち)……! 久しぶりだね」

 結婚してからいいことがほとんどなかったあたしは,彼の姿を認めて微笑(ほほえ)んだ。
 
 彼は大沢(おおさわ)大智。大学時代にあたしと付き合っていた元カレだ。
 
 でも,別れた原因は嫌いになったからではなく,お互いに就活で忙しくなって,何となくすれ違っているうちに自然消滅しただけだった。

 あたしはまだ,大智のことが好きなのだ。――ただ,一応は既婚者の身だから,その気持ちを表に出すことはできないけれど……。

「――っていうか,よくあたしだって分かったね」

 今のあたしは,彼と付き合っていた頃みたいにキラキラしていない。服装だって地味だし,何となく所帯疲れしているのに。

「まあ,確かに見た目は変わったけど。第六感で分かったんだよ。『あっ,里桜だ!』って」 
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