幸せになりたくて…… ~籠の中の鳥は自由を求めて羽ばたく~

「里桜」

「とにかく,あなたが反対してもムダです。この話はもう終わり」

「里桜!」

「お風呂のお湯,入れてきます」

 言いたいことをすべて言い切ったあたしは,正樹さんに背を向けてバスルームに向かった。

「…………分かった。お前の好きにしなさい」

 押し問答(もんどう)白旗(しろはた)()げた彼は,悔しそうな口調であたしの背中に向かってそう呟く。 

「よしっ! 勝った!」

 バスタブにお湯を張る音に紛れるように,あたしは小声で言った。

 あたしは元々,言いたい放題言われっぱなしで泣くようなひ弱な女じゃないのだ。これまでの二ヶ月間は猫を(かぶ)って大人しくしてきたけれど,今回だけは譲れない。

 大智との楽しいオフィスライフ,そして秘密の恋の続きだけは誰にもジャマされたくない。――たとえそれが,世間からは許されない恋だったとしても。

 だって本当は,家の事情さえなければ,あたしは大智と結婚できたかもしれないんだから――。

 とはいえ,「好きにしろ」と言われたんだから,あたしが好きにしていいことはこれで確定したのだ。
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