蒼き臨界のストルジア
幼い少女の平然とした横顔を見て思う。


彼女は僕よりかなり小さく幼いが、
それでも海に関しては、
遥かに僕より先達者(せんだつしゃ)なのだと。



『プラシボー効果って知ってる?』


彼女が唐突(とうとつ)にそんな事をつぶやいた。


「薬が良く聞くと思い込まされて飲めば、
 ただの水でも効果が出るみたいなやつ」


『そう自己暗示。
 私は天才であなたは助かる。
 これは決まった未来よ』

「そっそうだね。
 君は天才だよ・・・ 」


自己暗示による能力の底上げ。


 記憶力、 判断力、 決断力。


いや彼女の場合、それは比喩(ひゆ)で、
本当に助かる実力を何気なく示しているのだろう。


私に任せとけば全てうまくいくと。

少なくとも彼女は本気でそう思っている。

彼女は漆黒の海原を見つめたまま何かを
つぶやき始めた。


『私は天才。私は天才。私は天才』


どこかわざとらしく微笑(ほほえ)む彼女。


『一度言って見たかったの。
 追いつめられた主人公が言うセリフ。
 私には必要ないけど。
 言ってみてわかった!
 これって自分に自信のない人のセリフ』


「僕にはそのセリフを言う余裕(よゆう)もないよ」

『そう』


主人公が自分を鼓舞(こぶ)する勇気をたたえたシーンも、
彼女にとっては滑稽(こっけい)なだけのようだ。


彼女には勇気を振り絞る主人公も、
それはその主人公の底を見せている喜劇にしか
映らないのだろう。


一般的な人間は、その勇気さえ持てないのが、
理解できないのだ。


世の中に絶望し、いつ死んでもいいと思っていた
自分でさえ、現実の死を突きつけられると、
生きたいと思っているのだから。


最初から死にたくない人間の恐怖はもっとだろう。


それさえ滑稽(こっけい)に見える彼女の絶対の自信が
その小さな体から(にじ)み出ていた。


その(りん)とした眼差しが母の横顔と重なって見えた。


 思いがけない邂逅(かいこう)


(かす)んだ残像の中に、遠い昔見た母の面影(おもかげ)が重なる。


 埋没(まいぼつ)した記憶の残像(ざんぞう)


 遠い昔に見た幻。


母は振り返りチャイルドシートの僕に近づき(ささや)いた。


『大丈夫』


< 17 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop