誰よりも不遜で、臆病な君に。
「そうですか。では私はこれで」

「君はどうしてここにいるのか、まだ聞かせてもらっていないけれど?」

腕を掴まれ、ざわりと鳥肌が立った。嫌いな人間に触られるのは好きじゃない。
クロエは一歩下がり、バイロンとの距離を開ける。

「私は聴講生です。嫁に行く当てもありませんから、暇つぶしにいろいろ学んでおりますの」

「君がその気にさえなれば、貰い手は多くいそうだけどね」

バイロンは気にした様子もなくにっこりと笑う。
コンラッドのことを言っているのなら勘弁してほしい。どれほど熱烈に求婚されても、応じる気はないのだ。
真意の見えない会話に、クロエは疲れてきた。

「なぜ女性は結婚しなければなりませんの?」

「うん?」

「必ずしなければならないと決まっているわけではないでしょう? 私、できれば結婚などしたくありませんの。だから放っておいてくださいませ」

これを言うと、両親には嫌な顔をされる。クロエは家族が大好きなので、彼らの憂いた顔を見るのは嫌だ。が、だからと言って自分の気持ちを捻じ曲げるのもごめんだ。もう何年も続く、母とのやり取りも正直辟易している。
どうして、〝結婚しない自分〟を認めてはもらえないのだろう。

「ふむ」

バイロンは腕を組み、真面目な顔で取り合った。

「あいにく、私の周りには今までその考えの女性はいなかったな。だから私は君に答えを提示できない。だとすれば君が自分で考えてみてはどうかな。なぜ結婚しなければならないのか。したくないのならば、どうすればしなくても生きていけるのかを」

「……は?」

クロエは自分の耳を疑った。バイロンが言っていることが理解できない。
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