誰よりも不遜で、臆病な君に。
だが、バイロンは飄々として続ける。

「国がつぶれれば、法など意味がなくなる。実際、伯父上だって、法の下に生きているような顔をして法を破り続けていたわけだ。それも、自分の目的のためにな。……伯父上のように目的が自分の利益のみを追求するものならば、咎められるべきだろう。だが、目的が国の存続であるのならば、法よりも大切なのではないかと私は思うんだ」

彼の言っていることは全くの間違いでもないだろう。しかし、王子自らが法を破ることを推奨するようなことを言うものではない。
クロエは周囲が気になってゴホンと咳ばらいをする。

「それは……あまりに極論というものですわ。法は人々が正しく平和に暮らすために作られた決まりです。どんなに崇高な目的であっても、一度でも特例を作ってしまえば、悪用するものが現れるかもしれませんわ。できるだけ守られるに越したことはないと思います」

「まあそうだな。それは前提条件だ。……ふむ、君はやはりなかなかに勉強しているな。意見もしっかりしている。女性は卒業資格だけ取ればいいという考えの者が多いと思っていたが、感心だな」

またも、意外な物言いをされて、クロエは目を瞠る。
勉強熱心なことを、感心されることは少なかった。在学中は成績はいい方が褒められるのに、卒業してからは、なにもかも分かったような物言いが勘に触ると言われるのだ。
女に生まれたことの不条理さを、クロエは頻繁に感じていた。

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