誰よりも不遜で、臆病な君に。
「……私はな、君も知っての通り、一度は〝亡き者〟にされた。そのときに、王子としての生き方は捨てたつもりだ。アイザックに王位継承権が移ったのは、国のためになると判断し、生き残れたあかつきには田舎町で隠居暮らしをするつもりだったんだ」

バイロンが生きるか死ぬかの状態で匿われていたことは、全てが解決してから知らされた。
自分の葬儀が行われると聞かされた心境は想像するだけでも恐ろしく、精神錯乱してもおかしくないと思うのだが、この冷静さはなんなのだろう。

「だが、コンラッドと伯父上がアイザックを陥れようとして、結局は隠れたままでは居られなくなった。私にもまだ第一王子としてやれることがあるのだ、という神の思し召しなんだろう」

結果的に、アンスバッハ侯爵はその身分をはく奪され、隣国で多発した要人の毒殺事件の容疑者として、引き渡された。
コンラッドは反省を認められ、臣籍降下の上、辺境地であるグリゼリン領へと追いやられた形になっている。

「クロエ嬢、人や国が発展するのに必要なことは想像することだ。成し遂げたい思いがあるならば、思い付きで動くより先に、どうすればそれが叶えられるのか熟考することが大切なのだ。安易な提案を受け入れる前に、それが本当に必要なものか考える。自分が得たいものの本質を見極める。それは簡単そうだが案外と難しい。一朝一夕ではできないだろう。アイザックを次期王にすることは、かなり長い間考え続け、最良だと感じた考えだ。だからこそ私は、王位継承権は辞退した。それこそが自分の思いのためになると思えたからだ」

「思いのため?」

「父上を支えるのだ。いい国を作る。上に立つのは、私じゃなくとも構わない」
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